医者はブルーワーカーだ。
医者として働き出してしみじみと実感する。
僕が医者になる前、医者の仕事に対するイメージは、ザ・ホワイトカラーだった。
ピシッとした白衣を着て高級そうな椅子に座りながらカルテを書いて、看護師などの実行者に指示を出す。
あくまでブレーンとして働く。そう思っていた。しかし実際は全くもって異なる。
肉体的にかなりキツい
医者として働いていて、最初にそのギャップに驚くのは、基本的に体力を使った肉体労働が多いという事。
お昼ご飯を食べる事ができない
午前中の外来が終わって、お昼過ぎ。本来ならその時間からランチタイムになる。
しかし午後に手術や検査の予定がカッチリ組まれていると、お昼ご飯を食べる事ができない。
大抵の場合外来が長引いてしまうので、予定が組まれた手術や検査では、自分以外の人を待たせる事になる。
患者さん、手術室スタッフ、病棟スタッフ、検査室スタッフ、全ての人が「医者待ち」状態になる。
他の人が準備できているのに、自分だけの都合で少し時間をもらってお昼ご飯を食べる事はなかなかに憚られる。
12時間の手術、飲まず食わずで立ちっぱなし
長い手術が入ると、これまたかなりキツい。
手術という高い集中力を維持しなければできない行為を、12時間続けてやる。これだけでもかなりキツい。
12時間の手術は毎日あるようなものではないが、それでも4時間手術を3回、くらいならば往々にしてあり得る。
また12時間立ちっぱなし、というのも単純に肉体的な負荷が高い。
極め付けなのが、一切飲食をせずにトイレにも行けない事。
それが当直明けで1時間しか寝ていない状態だった時にはもう…。
あらゆる汚染リスクを負う
医者の仕事は、多くの場合あらゆる汚染リスクと隣り合わせだ。
ほとんどの科で共通している汚染媒体として、血液が挙げられる。
動脈採血は医師が基本的にはやらなくてはならないし、あらゆる外科的処置を伴う科では出血に伴う血液暴露にさらされる。
血液汚染リスクがほぼ無いと言えるのは、放射線科くらいではないだろうか。
逆に救急外来では吐血、喀血、動脈性の激しい出血など、血液汚染リスクが高い場合が多い。
救急外来で働く研修医、救命医、当直医は「どこの誰かもわからない人の血液に自分の肉体が汚染されるリスク」を常に背負っている。
消化器内科や外科では、消化管を取り扱うため、あらゆる消化液(胃液、胆汁など)や糞便からの汚染リスクがある。
実際に医者側が汚染され感染が成立した例
少し前、こんなニュースがあった。
手術中に患者の血液が女性外科医の眼球に付着、C型肝炎に感染したもののそれに気づかず、その女性外科医が出産し子供をC型肝炎キャリアにしてしまったという。
僕の知り合いの救命医から、こんな話を聞いた。
救急外来の患者からB型肝炎の血液媒介感染が発生、救命医は劇症肝炎になり死亡したそうだ。今はみんなワクチンを打って抗体があるだろうから、B型肝炎には罹患しないだろうが。
医療行為には物理的な危険も伴う
医療行為をしていると、様々な危険がある。
汚染リスクもそうだが、それだけではない。
医療器具使用中に誤って傷つけてしまう場合
侵襲的な治療が必要時、メスや針、その他鋭利な器具を治療で用いる場合がある。
その際、誤ってそれらの器具を、自分や介助者に刺してしまったり、傷つけてしまったりする時がある。
どれだけ気をつけていても、一定の確率で発生してしまう。
僕もインフルエンザワクチンの接種を流れ作業的にやっていた時、患者に打ったワクチン接種後の針を誤って自分に刺してしまった事があった。
また、縫合で使用した針を自分の指に誤って刺してしまった事があった。
このように、感染リスクだけでなく物理的に怪我をするリスクが医療現場には常にある。
もちろん、その器具が患者に使ったものであれば、血液汚染された針を自分に刺してしまう、というような場合に汚染リスクもセットでつきまとう。
患者から物理的危害を加えられる場合
器具で誤って傷つけてしまう以外にも、患者から危害を加えられる時もある。
多くの場合、患者に意識障害があって、自分でも自分が何をしているのかわかっていない場合がほとんどで、意図的に医療者に危害を加える人は少ない。全くのゼロではないけれども。
何かしらの理由で意識レベルが低下していて、ポピュラーな危害の加えられ方は「噛みつき」。
何かしら治療をしていて、腕や指を患者に噛まれる事はたまにある。
僕も研修医時代、救急外来で口腔内の観察を行おうとした際に患者に指を思い切り噛まれた事がある。めちゃくちゃ痛かった。出血は大した事もなく、骨折もなく大事には至らなかった。
次に多いのが殴打。殴る蹴る。
この場合医師ではなく、看護師さんが被害にあっている場合が多い。認知症の患者さんに点滴を取ろうとして、痛いのが嫌で暴力を振るってしまう、など。
患者本人には言ってもわかってくれない事もあり、無理やり押さえつけて点滴を取るしか無いのだが…。
医者も3Kのブルーワーカーでしょ
3Kとは、過酷な労働条件を表す略語で
- キツい
- 汚い
- 危険
の頭文字を取った造語。
まさに医者も、肉体的にキツく、汚染リスクが高く、危険たっぷりの仕事だ。完全に当てはまる。
医者は決してホワイトカラーではない。
3Kのブルーワーカー。過酷な労働条件で働く肉体労働者に過ぎない。
これから医者になろうと思っている人、子供を医学部に入れようとしている親は、それを理解した上で医学の道に進むべきだ。