医者になってみると思うのが、なんだか医者の仕事というのは思っていたよりも楽しくない、つまらないものなのだ。
思ったよりも頭を使わないし、思ったよりも悩まない。
思ったよりも作業的で、思ったよりも感情は排除される。
医者の仕事がつまらない、楽しくない理由
医者の仕事がつまらないな、と僕が感じた理由は、主に3つある。
1、仕事量が多過ぎて、学術的な事を考えたりする余裕がない
一言で言うと労働負荷が高過ぎる。肉体の疲労が常に溜まっている。
昼は回診、外来、手術、病棟管理。
夜は当直、夜間の病棟からの呼び出し、救急外来からのコール。
肉体的に疲れていて、少しでも時間が空けば寝たい。教科書や論文を読み始めても、すぐ寝落ちしてしまう。
日本の医師の多くが、慢性的な疲労感を感じているだろう。
どれだけやりがいのある仕事でも、圧倒的なまでの労働負荷に対しては、人間は無力だ。何も考えられなくなる。
どれだけ先進的な、発展性のある世界にいても、その先進性や発展性を伸ばすベクトルの努力を重ねる事ができなければ意味がない。
仮にその世界に身を置いていても特別「先進性や発展性」を感じる事ができず、なんとなくつまらないなー、と思ってしまう。
2、時間が不足し過ぎて、流れ作業的になってしまう
業務に使う事ができる時間が不足してしまうと、医者としての仕事もつまらなくなってしまう。
例えば外来。患者の数が多過ぎて、1人あたりに時間をかける事ができず、やれる事と言えば
- 必要最低限の処置
- 説明
- 処方
- 次回の予約
だけになってしまう。
60人を5時間でやらなければならないとすれば、1人あたり5分。移動やカルテ記載の時間を含めると、実際には1人に3分程度しか使えない。
このように1人あたりに割ける時間が短いと、雑談したり近況を尋ねたりする時間がない。ただの作業になると、なんだか仕事が無機質でつまらないものになってしまうのだ。
こういった他愛のない話から、診療のヒントになるような事が出てくる事はたまにあるので、僕個人としては医学的にも必要だと思う。
もっと時間的に余裕のある仕事をする事ができれば、医師にとってのやりがいも増すだろう。
3、チャンレンジできない
医者の仕事は命や体の機能がかかっている分、基本的に失敗する可能性はなるべく排除しなければならない。
しかし今の医学があるのは、過去医学が発展する前に、多大なリスクを負って治療に挑戦してきた患者と医師がいたおかげである。どんな分野も発展前は失敗と試行錯誤の繰り返しだったはずだ。
きっとこの頃は「助かったらありがたい」というメンタリティだったのだろう。
今はどうだろう。基本的に「助かるのが当たり前」で、患者側も死や不健康を想定していない事の方が多い。
戦争も終わり経済的に発展した日本では、皆健康で死から遠ざかった。
医学の発展がある程度進んだ事と、死や不健康状態から遠ざかった事、時代の流れが生んだ2つの大きな潮流によって、なかなかチャレンジングな事をしにくい空気が医療現場には流れている。
その最たるものがガイドラインだと思う。
何をするにしてもガイドラインを遵守しなければならない流れがあり、やり方が決まりきってしまっている。
とはいえ患者側からすれば、データに裏付けされた効果的な治療を、一部の天才しかできないようなやり方ではなく平凡な医者にもできるように工夫された、ガイドラインに沿った治療をしてくれるのは、ありがたい話だ。
健康や命がかかっているのだから、あまりガイドラインに逸脱した事はして欲しくないという気持ちもよくわかる。
そういった過去のデータの蓄積、それによる治療のマニュアル作成、これらが医師の仕事をより無機質な機械的な物に変えてしまっているのは、間違いない。
とにかくあらゆる余裕がない!だから医者の仕事はつまらない、楽しめない
医者の仕事というと、世の中的には一体どういうイメージなのだろう。
医療ドラマやマンガなどでは
- 両手あげてオペ室に入室し「メス」の一言
- 医局で医者同士が楽しく会話
- 患者が急変、かっこ良く登場し助ける
- 仕事終了後にみんなで行きつけの店へ
という描写があるが、実際は
- 「はい!じゃあ消毒して良いですか?看護師さん早くタイムアウトしてー」
- 医局では黙ってカルテ書くか、昨日の当直で寝てない医師が意識失っている
- 患者が急変するも自分の専門外っぽい事が原因で出る幕なし
- 誰かが当直してて皆で飲み会とはならない
という感じ。
オペ室は症例が増えて入室待ちばかり。早くオペを初めて終わらせようとする外科サイドと、早くオペを入れ替えようとする看護師・麻酔科サイドがせめぎ合い、ガチャガチャしている。
医局では楽しく会話なんて成立せず、2種類の医者しか存在しない。大抵疲れて意識を失っている先生か、30分はかかりそうなカルテ書きを20分で無理やり終わらせようと努力をする先生か。
世間が思うより、殺伐としているし忙しいし、仕事内容は汚いし泥臭い。
思ったよりも医者は時間がない。眠い。力が出ない。疲れている。
あらゆる面で余裕がない。
余裕がないので、なんだか仕事がつまらない。
時間、疲労、あらゆる余裕が無い事で生まれる「つまらなさ」
もっと時間があればスタッフや患者さんと雑談したいし、同僚と飲みにも出かけたい。
もっと疲労が溜まってなければ、医局でヨダレを垂らして寝るだけじゃなくて、論文を読んで教科書を読んで、学術的な話し合いをしたい。
チャレンジングな方法を考え出して、新しい治療法を開発してみたい。
こういった仕事に対する根源的な欲求を満たす事ができない、日本のお医者さんという仕事は、なってみると思った以上に、つまらない。
医師以外の職業に就くという選択肢
医師という職業に嫌気がさしたら、別の職業を探してみるのも悪くない。
今の時代、インターネットによって情報が行き来しており、場所と時間を問わず情報にアクセスする事ができる。
それほど手間はかからないので、やってみても良いだろう。
詳しくは医師が医師以外の職業、他業種に転職するには?にて。