今まで王道だった道が、急にその輝きを失ってしまう事はどの業界にもある。
かつて高度経済成長期に人気だった工学部を出て、大手の電機メーカーに就職、という王道はもろくも崩れさった。シャープの半導体部門が台湾企業にバルクセールされたニュースは、記憶に新しい。
昔は工学部が人気で、今人気の学部はまさしく医学部である。
昨今の世間の医療に向ける関心は凄まじい。
大学受験における医学部人気、テレビドラマは医療関係、ゴールデンの番組も健康番組ばかり。本屋に行けば「長生きしたければ○○しろ」のような健康本。
世間の医療に対する関心が高い今、自分の子供を医学部へ入れたい親は間違いなく多いだろう。
しかしそんな医者の世界も、例外なく輝きを失う時が来る。
医局に入って専門医を取っても、淘汰される時代
患者が減り医師が相対的に余り出すと、医師の仕事が減ってしまう。そういうマクロな視座に立った意見は、そこかしこと医師の間でも話される内容となった。
大まかな流れとして、それは間違っていないだろう。
しかし問題はそれだけではない。今後、医師人材に市場原理が働く可能性がある。
例えば手術がうまい、技術と経験が確かな医師の価値は高まるだろう。逆に医師ならば誰でもできるような事しかできない医師の価値は低く見積もられる。
つまり医師は自分の人材としての価値を市場価格で見積もられる事になる。
そうなると今までの王道であった、医局に入って専門医を取得してキャリアを積む、という道は王道としての輝きを失う事になる。
医局では培われない、医師人材の価値の構成要素
なぜならば医師の人材価値は、医局に入って培われる物では無いからだ。
人材価値に市場原理が働くようになれば、医局に入っている入っていないは一切関係ない。その医師が個人としてどれくらい価値のある医師なのかどうか、そこに尽きる。
逆に医局の上にあぐらをかいて自分の価値を磨く事を怠っている医師は、今後価値を漸減させていくだろう。
僕が思う医師の人材価値は
- 経験や知識、技術
- コミュニケーション能力
- 営業力
の3つに分類する事ができる。
1、経験や知識、技術
これはわかりやすい。いわゆる「医師として優秀かどうか」とほぼ同義である。
一般に医師の価値を考えた時に、真っ先に誰もが思い浮かぶ項目だろう。
これらを磨くには、医師としてある程度の年数を働き、様々な経験をし、それでいて最新知識の勉強を怠らない、こういう姿勢が必要になる。
医局に入り真面目に研鑽を積めば、この部分を鍛える事はできるだろう。
しかし以下の2項目は医局に入るだけでは鍛える事ができない。
2、コミュニケーション能力
医師のコミュニケーション能力は、個人的に医師にとって最重要項目だと思っている。
なぜならば今の時代は専門分化が進み、あらゆるプロフェッショナルの力を統合して最大の効果を発揮する時代になったからだ。
他科の医師はもちろん、他のメディカルスタッフとチームを組んで問題を1つ1つ潰していかなければならない。そのためには円滑なコミュニケーションが必須だ。
1人の天才医師に頼るのではなく、多くの専門家がチームプレーでハイパフォーマンスを発揮する時代になったのだ。
逆に言えばどれだけ高いスキルを持った医師でも、周囲とのコミュニケーション能力が壊滅的で他スタッフとの連携に失敗し、何かしらのミスが発生してしまっては安全な医療を提供できない。
このスキルは医局に入ったからといって手にはいるわけではなく、むしろ
医局に入って専門医取れば安心だあ
くらいに思ってあぐらをかいている医師には身につかないだろう。
このコミュニケーション能力が乏しい医師は、人材紹介会社からも敬遠されがちだ。
3、営業力
上記2つは、医師としての総合的な価値を表している。一方で同じ価値の物をより高く売る能力、それが営業力と言われる。
例えば「顔が広い」医師は営業力が高いと言える。
医師としての自分を高く売る事ができる何か、それを多く持っていれば持っているほど営業力は高まる。
- 友達が多く顔が広い
- 話が上手で良く飲みに誘われる
- 周囲の人から好かれる事が多く慕われている
- 様々な病院での勤務経験があり上に取り入るのが上手い
など、様々。
これも医局に入って専門医を取るだけでは到底身につかない。
大事なのは専門医資格ではなくコミュニケーション能力
これら3つの要素のうち、最重要なのはコミュニケーション能力だと思う。
なぜならこれは外部から評価しやすい上に、代え難いからだ。
なんとなくその人に色々話をしても良さそうかどうか、頼れるかどうか、助けてくれそうかどうかというのは初対面でも感じる事ができる。
一方で医師がどれくらいの技術を持っていて、どれくらいのスキルがあるのかというのは外部から評価しにくい。
コミュニケーション能力は、外から見えやすい。
さらに代え難い能力でもあり、変化しにくい能力でもある。
話しにくい先生が、いきなり話しやすい先生にはならない。
そういった意味で、最も差別化しやすい「医師の価値を決定する要素」であるように僕は思う。
営業力は無くても問題無い
なおこの3つめの営業力は無くても問題無い。人材紹介会社に任せてしまえば良い。
しかし紹介会社に良い勤務先を紹介してもらうためには、転職エージェントに
この医師は良い医師だ
と思われる必要があり、そのためにもコミュニケーション能力を鍛える事は必須だ。