朝6時30分に家を出る。
病院に着いてコーヒーを飲む間も無く働き始める。午前中の時間が流れるように過ぎていく。
息つく暇もなく、カルテを書きながら昼食を食べて、トイレには2回行くのみ。
それ以外の休憩は一切無しで働き続けて、やっと仕事を終えて時計を見ると22時。
今から家に帰って、家に着くのが23時過ぎ、食事を食べてシャワーを浴びて、24時ごろになってやっと自分の時間。
妻と子供はもう寝ている。
冷蔵庫のホワイトボードには妻からの「お仕事お疲れ様」というメッセージ。
机の上のラクガキには、髭の生えた髪の毛ボサボサの男が白衣らしいものを着ている。どうやら僕のことらしい。
子供にはこう見えるんだと思うと、ビールを飲みながらつい笑ってしまう。
ふと時計を見ると、もう1時。あと4時間30分後にはまた起きて病院へ行かなければならない。
ーと、このような忙しい日々を過ごしている勤務医の先生は多いと思う。
特に大学病院や、「断らない救急」をウリにしているような、営利目的の急性期病院で働いているような先生に多いだろう。
そう、日本の勤務医は本当に忙しい。
日本のお医者さんは忙しい…とあるDr.との話
僕は初期研修時代、休暇をもらってアジアを旅していた。
旅先のプールバーでカクテルを飲んでいた時、意気投合した若者がいた。
年は僕と同じくらいで、着ているTシャツにはInnovationと書いてあった。
色々と話しているうちに、職業についての話になった。IT系かと尋ねると、違って医師(整形外科医)だった。
日本人で車のTシャツを着ているからといって、職場がトヨタ自動車であるとは限らないのと同じように、イスラエル人でInnovationのTシャツを着ているからといって、IT企業で働いているエンジニアとは限らないようだった。
彼と日本とイスラエルの医師の違いについて色々語っていると、やはり労働環境に関しては全然違う事がわかった。
休みが長く労働時間が短い、海外の医師
まず休みの長さ。彼は1ヶ月アジアを旅するらしい。うらやましい。
僕はたった5日だという事を伝えたら
「クレイジーだ、一体何のために生きているの?」
とまで言われてしまった。
そして彼は、大体朝8時に出勤して18時には帰宅するという。お昼は11時から13時まで、同僚とランチを食べてコーヒーを飲むらしい。
労働時間、休暇、どれをとっても日本の病院では考えられない水準だった。
子供と一緒にいる時間が短過ぎて、成長を感じる事ができない
それでも日本のお医者さん達は、日夜身を粉にして働いて頑張っている。
そんな中でも、僕が忘れる事のできない話がある。
40歳くらいの中堅医師とお酒を飲む機会があった。普段は忙しいので、年に2回も飲む機会は無い。
ある程度お酒も入ってきて、色々と本音が出るようになってくると、子供と家族の話になった。
息子さんはもうすぐ小学校にあがる6歳と幼稚園に上がったばかりの4歳。
振り返ると、長男が3歳だった頃から、家族でどこかに出かけたり、思い出らしい思い出を作れた時間が無いらしい。
「いつの間にかね、知らない言葉をたくさん覚えているんだよ」
と、悲しそうな顔でビールを飲んでいた。
「知らない間に子供はどんどん大きくなって、気づいたら甘えてくる時期は過ぎ去る。もうこの時間は戻らないんだって思ったら、一体俺は何をやっていたんだろうって、時々後悔の念が心に押し寄せてきてやるせない気持ちになる」
僕は何も言えなかった。
仕事、研究、雑務、試験、あらゆる仕事に追われて、その先生は子供達と過ごすかけがえのない時間を失ってしまった。
忙しさのあまり、本来何にも代え難いはずの、子供と過ごす時間。
それを彼は失ってしまった。
人生において最も貴重な資産は時間だ。断言できる。
時間をもっと、日本のお医者さんは大切にするべきだ。
時間をないがしろにして、気づいたら子供が成長していた、なんてあまりにも虚しすぎるし、人生の本当の目的や価値というものを見誤っていると僕は思う。
家族との時間を大切にするために
そんな事を言っても
結局今の忙しさは中々変えられない
そういう思う人が大半だろう。
もしかしたら中には、もう医者を辞めたいと思う人もいるかもしれない。
しかし何も考えずに辞めてしまうのは少し早計。何も考えなしに辞めてしまうと、後々不利益が発生しやすい。
残された最後の手段は、転職しかない。
今の時代、インターネットで転職先を探す事ができるようになった。
もし場所を選ばない、というのであれば、田舎であればソコソコの給与水準でゆとりのある勤務体系の病院が複数ある。時間が欲しい、家族との時間を増やしたいという人にはオススメだ。
自分の実家やパートナーの実家など、どちらかの家の近くに身を寄せて、ゆとりある勤務で家族との時間を増やす。
明確な1つの幸せの形だと思う。
仕事に忙殺されて、ただ何となく日々を過ごしている人は、よく考えるべきだ。
自分はどうしたいのか。どんな人生を歩みたいのか。何に価値を置くのか。
この世で一番貴重な「時間」を「なんとなく」失ってしまうのは、きっと医師としてというより、1人の人間としての人生の価値を下げてしまうだろう。