初期研修を終える一歩手前、2年目初期研修医はとある大きな選択を迫られる。
そう、専門科の決定だ。医者人生を大きく分ける選択である。
もちろん、1度専門科を決定した後でも変更する事はできなくもないが、他科のペーペーとしてもう1度下っ端からやり直すのは、正直ダルいし面倒。なるべく避けたいところ。
さて、そんな専門科の決定だが、重要な選択であるが故になかなか決めきれない、悩んでしまう医師は多い。
もし専門科決定に悩んでいる初期研修医がこのページを見ているならば、よーく考えて欲しい。
どの大学にしよう、どの部活にしよう。
どの人と付き合おう、どの病院で初期研修しよう。
今までしてきたであろうこれらの選択の中でも、1位2位を争うほど重要な選択だ。
そんな初期研修医が考えるべき項目は、主に7個ある。
1、開業するのかしないのか
医師というキャリアを歩む上で、ゴールとして目指すのが開業かどうか、という点はよく考えておくべきだ。
皮膚科、眼科、整形外科、泌尿器科、精神科、いわゆるマイナー科と呼ばれる科は開業しやすいと言われている。
逆に一般外科、脳外科、心臓外科などは自分の科で開業するのは流石に難しいだろう。
僕の大学の外科の先生で、内視鏡カメラを少しばかり修行して消化器内科を標榜して開業しているが、成功している。自分の科以外で開業をする、という技を使えるのならば選択肢は増える。
このように、現在は自分の専門科目以外のカンバンで開業する事ができる時代だが、新専門医制度が始まって専門医発行に厚生労働省が関わってくるとなれば、場合によっては「その科の専門医以外はその科での開業はできなくする」など、専門医発行権と絡めた圧力がかかる可能性は十分に想像できる。
ただし今後どういう見通しになるかはわからない。
2018年現在、最近は外科医不足を解消するために、厚生労働省がオペの診療報酬を上げており、病院経営をする上でオペをいかに行うかが経営改善のカギを握っている。
そういう意味では、整形外科医などは病院の稼ぎ頭でもあり
- 勤務医の給料が整形外科医だけ上がる
- フリーの整形外科医に仕事が降ってくる
など、あらゆる変化が想像できる。必ずしも開業する事だけがゴールとは言えないのかもしれない。
2、オペや手技全般が好きか嫌いか
仕事をする上で、自分がやっていて楽しい、せめて苦痛と感じない仕事内容でないと、なかなか辛いものがある。
医師が行う仕事の中には、必ず手先を使った治療や処置が存在する。これを好きと思うか嫌いと思うかは、医師を大まかに2つに分ける事になる。
人間そのものに侵襲を加える事に強い抵抗がある人は、正直手技が多い科はやめておくべきだ。
手技があった方が直接治している感じがして達成感があって良い、という人はおそらく向いている。
外科系内科系、という分類は意味がない
例えば同じ内科でも、消化器内科や循環器内科はそれぞれカメラ、カテーテルと治療や検査に手技を伴う場合が多い。
一方同じ内科でも膠原病内科、代謝内分泌、神経内科、呼吸器内科などは、消化器内科や循環器内科と比べて手技が少ない内科だと言える。
外科系はもちろんオペがあるし、シャントを作らなければ腎臓内科はあまり手技が少ない科になる。精神科はもちろん手技は少なくて、放射線科はTAEなど血管内カテーテル治療を行えば手技が多くなる。
このように、昔と異なり医師の仕事内容は「外科系と内科系」というくくりでは分けられない。どちらかと言えば「手技が多いかどうか」が医師の職務内容を2分する本質的な要素であり、これは専門科決定の重要な要素だ。
3、バイトが多いか少ないか
また医師の仕事でも、専門科によってバイトの多い科と少ない科が存在する。
例えば脳外科、心臓外科などレベルの高い手技を要し、手術後の管理も重要となる=患者と長期で関わる必要がある科の場合は、バイトは少ない。
内科でも、慢性疾患を主に診るような膠原病内科、血液内科などの科は「この日の外来だけバイトの先生に頼んだ」みたいな事ができないため、バイト自体は少なくなってしまう。
逆に言えば、そういった性質の薄い科ではバイトが多い。
具体的には
- 胃カメラの検診
- 婦人科検診
- 産婦人科のカイザー待機
- オペの麻酔
などは、「その先生じゃないとできない」ような仕事内容ではない。その科を専門にある程度の研鑽を積んでいる人であれば、ソコソコできる仕事内容である。
また、患者と長期で関わる必要がない。検診は何も無ければ終わりだし、何かあった場合は患者が病院を自分で選んで受診し、そこの医師と長期的な関わりを持つようになる。
こういった科では仕事を外注化しやすく、結果的にバイトの案件数が多い。そのため自分で定期バイトを探して収入を増やしたり、医局や病院に頼らずに仕事ができる。
副産物的ではあるが、組織依存性が低いというメリットがある。
4、命のやり取りが嫌いじゃ無いか
医師を続けていく上で、人の死についてどう感じるか、という事についても専門科決定の重要な要素だ。
人の死については様々な考え方がある。
考え方として
人の死そのものが苦手で、なるべく人が死なない科が良い
という人もいる。
知り合いの先生はそういった理由で整形外科を選んでいた。確かに、多くの患者は骨折や靭帯損傷など、直接命に関わる状態ではない場合が多い。中には交通事故による高エネルギー外傷で骨盤骨折、みたいな症例もあるだろうけど、基本的には死からは遠い科かもしれない。
とはいえ、救急外来で呼ばれる回数は多いだろう。
また
人の死そのものは怖くない、何かあれば穏やかに死ぬことができるよう助けたい。
でも救急外来で緊急で呼ばれて、自分の一挙手一投足に命がかかっている、みたいな環境には高いストレスを感じる
と、血液内科の先生は言っていた。
血液内科は確かに死に近い科で、少しずつ死に近づいていく患者が多いように思う。救急外来で、緊急事態の対応を迫られることもそう無いように感じる。
そういう人もいれば、真逆の考え方として
人が死に近いほど興奮する、自分の判断に患者の命が乗っていると思うと、力が湧いてくる
という理由で救急、麻酔を選んだ先生もいる。
人の死をストレスに感じるかどうか、人の命が自分に完全に乗っかっている状態がダメなのかむしろ良いのか。
初期研修医時代の自分を見つめて、心の声を聞いてみよう。
5、緊急、救急外来の症例が嫌いじゃ無いか
上記のように、救急外来とどれくらい関わるかという要素も大きな判断材料になる。
救急外来と関わることが多いという事は、必然的に下記の2つの性質を受け入れる事になる。
- 急に舞い込む仕事
- 自分が助けなければ命が危ぶまれる、もしくは何かしらの健康が損なわれる可能性がある
この性質の仕事は大変でストレスを感じるが、このストレスが気持ち良い、快感だという人もいる。
またこの手の仕事は大変患者から感謝される事が多く、その辺をやりがいにして医師をやっていくのであればアリかもしれない。
6、バイトをしているヒマがあるか
時間と金の問題である。つまり医師個人としての日常生活レベルを、どの程度求めるかという問題だ。
3番目の項目に書いたような、仕事を外注しやすいかどうかという要素ももちろん重要。しかし、そもそもバイトをする時間がどれくらいあるか、という要素もQOLを考える上では重要になる。
例えば3番目の項目に書いたような、内視鏡カメラの検査とオペ麻酔、どちらも外注しやすいためバイト案件が豊富だが、おそらくバイトに行く暇がどれくらいあるか、という事については後者に軍配が上がるだろう。
また、外注しやすい性質の科以外の科でも、割と時間的に余裕がある科では、専門科に限らない検診や献血のバイトをスポットで組み込めば良い。労働時間あたりの報酬は少なくなってしまうが。
自分がどれくらいの時間的、経済的余裕が欲しいのか。これも非常に重要な要素である。
7、土日の回診が嫌いじゃ無いか
QOLという観点からすれば、土日の回診があるかどうかは大きい。
土日の回診が必須であったり、気になる患者さんがいてつい病院に行きたくなってしまう事が多い場合、なかなか遠出は難しい。海外旅行なんてさらに難しい。
土日の回診の多い少ないを決める要素としては、大きく分けて2つある。
1つは患者の重症度。重症度が高い患者層であれば2日顔を見ないというわけにはいかない。必然的に回診がマストになりやすい。
2つめは新規入院が多いかどうか。休日の入院もあったりすると、休日回診の必要にせまられる。
究極的な事を言ってしまえば、救急と麻酔は自分の病棟を持たない事が多いため、土日の回診は外れる事が多い。中にはこれらの科がICUを完全管理している病院もあるだろうから、その場合は例外になる。
最後に
いかがだっただろう。
おそらく専門科を決定する手順としては、上記の7項目のうち自分はどれを最も重要とするのか、重要度順に並び替える所から始めるのが良いだろう。
そして重要度が高い順に、それを叶える科を絞って行き、最後に残った科が自分に合った科だと思う。
学会加入、医賠責…後期研修医になったらやるべき3つの事という記事もあるので、もし興味があればこちらも参照して欲しい。