勤務医として大学病院で勤務中、ある時突然こう思うことがあった。
ああ!もう明日にでも医局を飛び出して辞めたい!
何回も何回も…。
ある程度医者をやっていると、そんな「医局を辞める」という大きな決断を、強く思うタイミングというものが存在する。
1、雑用仕事を大量にぶん投げられた時
医局にいると様々な理不尽に遭遇する。
中でもこの雑用仕事をひたすら押し付けられるのは、理不尽な出来事の筆頭。
- 飲み会や勧誘会のセッティング
- 勉強会やMR説明会の準備
- よくわからない学会もどきのサクラ発表
- 学生への講義
- レセプト関係
- 医療安全講習
など…1つ1つあげていけばキリがない。
これら1つ1つは致命傷ではないものの、少しずつ確実に体力を奪っていく。
ゲームで言うところの「状態異常:毒」みたいな感じ。
ゲームと違うのは、家に帰って寝ても状態異常は元には戻らないし、体力も全回復しないという点。体力が減った状態で、かつ毒状態のまま翌日を迎えなければならない。
毒状態が継続し、体力が回復できない日々。
そんな日々にいながら、ある時突然
医局を辞めればこの状態から抜け出せるのではないか
と、鏡を見ながら疲れ切った自分を見て思う。
と言いながらも、日常を変える勇気を持たなかった過去の自分はそんな日々を続ける。
そしてある日、体力が完全にゼロになる日が訪れる。
2、過労で体調を崩した時
体力がゼロになるとどうなるか。
そう、体調を崩すのだ。
僕は原因不明の発熱と倦怠感のみ、などと医学的に何かしらの感染症では説明できないような病状に陥った。
気分的にも何もやる気が起きなくなり、少し鬱っぽいのではないかと自分でも自覚し始める。
大抵の場合、1日休みをもらってゆっくり寝れば若いうちは何とかなってしまう事が多い。
しかしながら、この生活をずっと続けていけば自分の体はボロボロになる事間違い無し。
大してお酒も飲まないのに肝臓が悪くなったり、食生活が崩れて血圧が高まったり、徐々に歪みが生まれ始める。
医局に自分の時間を、健康を、人生を売っている。
3、転勤が多く頻回な時
これも結婚をしていると特に顕著な問題だ。
1年おきに職場移動を強いられる職場なんて、滅多にないだろう。医局に属する医師くらいだ。
職場に慣れたと思ったらまた転勤。引越し代40万。
1年経ったらまた転勤、引越し代40万。
こうして引越しを何回も繰り返し、結婚式1回分くらいの額を引越しに捧げる事になる。
引越し貧乏というやつだ。
転勤は一緒にいる家族にも負担をかけるし、全くもって良い事が1つもない。
転勤ばかりの医局は、つい辞めたくなってしまうのも仕方がないだろう。
4、忙し過ぎてこのままだと恋愛も結婚もできそうにない時
朝7時に病院へ行き、夜22時に帰宅。
土日は午前中回診して、午後はバイト。
こんな日々を続けていると、当たり前だがプライベートというものが無くなってしまう。
結果的に恋愛ができない、結婚相手を探せないといった弊害が生まれてくる。
しかしながら、理由3にあげた転勤が救いの手となってくれる場合がある。
頻回に転勤があるという事は、頻回に職場での新しい出会いがあるという事だ。プライベートで出会わなくても、仕事をしているだけで出会える人が増える。
頻回な転勤は、独身医師にとっては恋愛結婚のチャンスを広げてくれているという、メリットもあるのだ。
5、子供に「いつもお仕事で会えない、寂しい」と言われた時
忙し過ぎると、独身の場合は恋愛や結婚ができないのがデメリットだと述べた。
一方既婚者の場合、今度は子供や奥さんが寂しがってしまうデメリットがある。
僕の知り合いの先生は、そんな寂しくさせてしまった子供の一言で医局を辞めた。
話を聞くところによると、いつも本当は遊びたいけど我慢している先生の長男が、ある日突然泣き出してこう言ったそうだ。
いつも、パパお仕事でお家にいない、寂しい
と、小さな手でズボンを掴んで言ったそうだ。
その時その先生は、医局を辞める決心がついたという。
特に別の勤務先は決まっていなかったが、すぐに医局を辞めたらしい。しばらく家にいて長男とたっぷり遊んで、転職サイトに登録して勤務先を見つけたと言っていた。
僕にはまだ子供がいないけど、確かにこう言われたら後ろ髪強く引かれてしまうのだろう。
このように、誰かの発言が自分をハッとさせてくれる事がある。
6、親に「仕事は楽しいか?」と言われた時
実家に帰った時、親と仕事の話になる事はままある。
仕事について尋ねられて
大変だけどまあ何とか頑張っているよ
みたいな事を答えると、疲れた僕の顔を見て何かわかったのだろうか
お前、仕事は楽しいのか?
と神妙な顔で尋ねられた事がある。
その時、僕は反応できなかった。
全く楽しくないかと言われればそうではない。
楽しい時、嬉しい時、感動する時、やってて良かったと思える時、それは確実に存在する。
しかしながら、それを上回る理不尽さ、仕事の大変さ、あらゆる嫌な事に飲み込まれて、決して今の状態のこの仕事を続けたいとは思えなかった。
お前の人生なんだから、お前が考えてお前のやりたいようにやれ
と、言ってくれるのが僕の親だ。
彼らは過去、僕の決断に1回も口を挟んだ事が無い。
フリーになる事も、何なら医者を辞めるという決断さえ、きっと「お前が考えてそう判断したならば、それで良いだろう」と言ってくれる。
7、医者以外の友人が楽しそうに仕事の話をしている時
忘年会などで中学や高校の同級生と飲んでいると、医者以外の仕事をしている人が大半で、ライフステージも様々なので刺激があって面白い。
中でも、彼らの仕事に対するモチベーションが非常に高くて驚く。
詳細は言えないけど、こんな案件を取ってきて今営業部で成績がかなり良い。給料も1本超えてるんだ。医者にも負けない。
とか
50億のプロジェクトを任された。自分がこんな大きな仕事をこの年齢でするとは思わなかった、こうして他職種の人と話しているのも何かしら仕事につながると思って楽しい。
など、仕事に対してのやる気、好奇心、前向きな姿勢、勢い、すべてが溢れ出ていた。
もちろん全員が全員そうではない。
しかし実際に、仕事について楽しそうに話す彼らを前にすると、自分は一体何をやっているんだろう…と少し迷いが生じた。
8、上が働かないくせに文句ばかり言ってくる時
医局を辞めたくなる大きなカテゴリの1つ、上司問題。
その上司問題の中の筆頭、働かないくせに口だけ出してくるうるさい上司。
おそらく病院だけでなく、どの業界にも存在する。
この上司は、かなりの確率で労働意欲を削ぐ。
なぜ彼らより働いて、彼らより勉強して最新の医学知識を身につけて臨床に挑んでいるのに、何もできない彼らが偉そうに踏ん反り返って、かつバイトに行きまくって給料も高いのだろう。
黒い気持ちがフツフツと湧き上がってくる。
最初は嫌悪感程度だったものが、徐々に憎悪へと変わっていく。
重要なのは、彼らと自分の上下関係がひっくり返る事はまずない、という事だ。
ずっとその上下関係を持ち続けたくなければ、関係を断ち切るしかない。
関係を断ち切りたければ、医局を辞めるしかないのだ。
9、上の失敗を自分のせいにされた時
漫画「医龍」でも見たことがあるだろう。
上司がミスをしたのに、下っ端のせいにされてそれを飲み込まざるを得ず、不利な条件で転勤させられてしまう姿を。
そこまでいかなくても、上司のミスが若手のせいにされる、という事はあり得る。
嫌悪感から憎悪へと変わった上司への感情が、爆発する瞬間だ。
もうこの上司とは一緒に働けない、一緒にいたら殴ってしまいそうだ。
そういう感情を持つようになったら、もういつ医局を辞めてもおかしく無い。
この段階で、そろそろ転職サイトには一通り登録している事だろう。
10、ソリの合わない上司が出世しそうな時
つまりは希望を断たれた時である。
クソ上司に理不尽な対応を迫られて
あの良い先生が出世して教授になって、クソ上司を滅亡してくれ
と心の中で呟く。
しかし、世の中はそうならない事の方が多い。
むしろクソ上司が出世してしまって、より未来が見えなくなったりする。
ただでさえ医局で勤務医として働いているのがつらいのに、クソ上司が出世して組織のボスになったら…。
ここまでくれば、もう気持ちは医局からすでに離れている。
11、他の医局員が辞めた時
医局に染まってしまうと、明らかに不利な条件で働かされているのにも関わらず、その環境に適応してしまう。
毎日大変だけど、まあこんなもんかあ
と思考が止まって、日々だらだらと無為に時間だけ過ぎさっていく。
そんな状態から目覚めさせてくれるのが、この「他の医局員が辞めた」である。
医局そのものの価値を客観的に見る方法はいくつかあるが、中でもこれは信憑性が高い。つまり本当にその医局がクソである可能性が高い。
その組織の異常さは、やはり内部の人が最も鋭敏に察知する。
他の医局員が辞めた時、どんなに洗脳されている医局員でも、その医局に価値がないのでは無いか、という疑念のタネが植え込まれる。
12、下の医局員が全然入ってこない時
次に信憑性が高いのが、研修医がその医局を選ばない、という事である。
最近の研修医はQOL、細かい人間関係などを良く見ており、自分の人生をなんとかマネジメントしようと努力している。
なんとなくで道を選ばず、きちんと吟味して自分で選ぶ。
新入医局員が全く入ってこない、もしくは少ない時、「医局に魅力がない」という事を下の世代が認知したわけである。
アンテナが高い医局員はそれ感じ取り、医局に価値を感じなくなるだろう。
13、医局の評判が学生内で良くなかった時
医局員、研修医、その次に感度が高いのは医学生だ。
特に医局の雰囲気の良さ、人間関係の円滑具合など、ポリクリでまわれば大まかな事はわかる。それを判断材料に、この医局はやめておこう、というネガティブセレクションが心理的に行われる。
学生から「ナシ」の札を貼られてしまうと、なかなかそれを取り除くことは難しい。
14、同級生がフリーになったり開業した時
隣の青い芝生を見ると、医局を辞めたくなってしまう時がある。
それが本当に青いのか、それともそう見えるだけなのかは、わからない。
ただそれが上でも下でもなく、自分と似たようなキャリアを積んできたはずの同期や同級生であった場合、インパクトは大きい。
ホームページで同級生の肩書きに「院長」とついていたり、勤務時間を見たりして羨ましいな、と思ってしまう医師もいるはずだ。
15、SNSで医局を辞めた人がイキイキしているのを見た時
最近はFacebookなどのSNSで、自分の私生活を投稿している人が多い。医師も例外ではない。
中でも医局を辞めた人のSNS上での投稿が、キラキラ輝いているとなかなかつらいものがある。
平日に家族と食事に出かけたり、休日に病棟コールを気にせずにお出かけできたり、長期旅行したり、車など高級品を買ったり。
その人は少なくとも昔は、自分と同じ境遇にあったはずだ。
それがいつの間にか、時間、お金、自由、あらゆる面で自分より持っている人になってしまった。
勇気と行動力を支払って、手にした報酬だ。
自分も医局を辞めて転職したり、バイトを組み合わせてフリーランスになったりすれば、より良い生活を送る事ができるのではないか?
そう思って、医局を辞める気持ちがふつふつと湧き上がってくる事がある。
医局をやめて転職するなら
医局をやめて転職するならば、いくつかの転職支援会社に登録し相談する事をオススメする。
なぜならば転職支援会社ごとに得意とする要素が異なるからだ。
転職地域、専門科目はもちろん、転職者の年齢など様々な要素によって、転職は左右される。1つ1つのファクターごと得意な会社、そうでない会社が存在するため、複数の支援会社からの提案を受けた方が良い。
医師の転職方法の具体的な手順については、下記を参照。