無事医師国家試験を合格し、晴れて医師免許を取得。2年間の初期研修もなんとかやりきった。
自分の専門を決めて、新専門医制度の事もあり、将来医師が増えた時に少しでも有利になるよう、今のうちから大学病院の医局に所属する事にした。
こういう判断をする初期臨床研修医、医師は多いだろう。
しかし今一度よく考えて欲しい。その判断は正しいだろうか。
正しい正しくないというよりは、キチンと自分でリスクとベネフィットを天秤にかけて選んだ結果だろうか。
天秤にかけわすれた要素はないだろうか。
その天秤は壊れていないだろうか。
劣悪な労働条件
医局に入ると、様々なデメリットがある。
特に、圧倒的に労働条件が劣悪で
- 労働時間が長い
- 症例が重い
- 労働そのものが過酷
- 給料が低い
- 雑務が多い
と、あげればキリがない。
医局に属した医師はこの劣悪な労働条件を受け入れなければならない。
僕の知り合いの医師に
医局という言葉を耳にすると鳥肌が立つ
と今もなお言う、50代のフリーランス医師がいる。
それくらい彼にとっては医局という言葉から想起される、過去のトラウマが強烈なのだろう。
労働条件がいかに劣悪なのかを物語っている。
他人と比較した時に我慢できるか
初期研修が終わり各々の道を歩き出し、1年経たないうちに誰かが結婚したり、しなくても何人かで集まって酒を酌み交わすタイミングがあると思う。
みんな自分が良いと思った人生の選択をし、その選択を後悔しないように努力を重ねているはず。
専門科を決めて数年、後期研修医という立場は、仮にどんな選択をしたとしても一定以上の大変さは、必ずある。
医師である限り患者さんの命や健康、生活を賭けて戦っているのであって、その責任を一手に担うようになって楽なはずがない。
そんな中、各々の道を歩んだ旧来の仲間と会って情報を交換した時、どうしても自分と比べてしまう。
これは避けがたい。
あるものは産婦人科、あるものは精神科へ。あるものはER、あるものは皮膚科へ。
あるものは出身医局に属し、あるものは他大医局に属する。
あるものは市中病院へ常勤医として勤め、あるものはフリーランスとして働く。
選択は本当に多様で、全く同じ選択をしている者はなかなかいない。
自分が大学病院勤務の場合、ほぼ100%、自分と異なる選択をした旧来の友人と会った時、他人と比較した時の「自分の労働条件の劣悪さ」に気づき、打ちのめされる。
具体的には
なぜ市中病院につとめている奴は年収が2倍あるんだ?自分の方が働いているのに。
というお金の事や
同じ大学病院なのに、なんでアイツの科はそんなにラクなんだよ。
という労働時間の事、また
初期研修を終えていきなりフリーランスになるなんてアホな奴がいるもんだと思っていたが、週4勤務で年収1500万ってなんだよ。ふざけんなよ。
と、両方をミックスさせたもの。こういう黒い思いがふつふつと湧き上がってくるだろう。
そしてこの比較は、しばらく続いてしまう。
- 自分の労働条件が劣っているとわかっても、我慢できるだろうか?
- 今の我慢が将来必ず報われるという確信を、持ち続けていられるだろうか?
ここまで読んでイエスと答えられる人は、きっと大丈夫だろう。
自分の選んだ選択を後悔せず突き進む事ができ、結果的に大きな成功をつかめると思う。是非頑張っていただきたい。
しかし、ここまで読んで少しでも自信がない、不安になったという人は、医局に入るのはやめておいた方が良い。
最近は教授を目指す若手も少なくなり、医局の魅力はどんどん薄れてきている。
心の葛藤を数年、しかも報われるかどうかわからない状態で続けるのは、ゴールがわからない暗い洞窟の中を明かり無しでさまよっているようなもの。
到底精神が持たない。
自分は超人ではなく、単なる普通の人間だと思う人は、足を踏み留めて考えなおす事をオススメしたい。
入って抜けたらその支配地域では働けない
安直に医局に入ってしまう事のリスクとして、仮にその医局に入って辞めたとすると「もうその医局の支配地域で医師として働いていくのは困難」になってしまう事があげられる。
例えばA県出身の医師が、B県にある大学を出たとしよう。
色々考え、とりあえず医局に入って、無理そうだったら辞めるという気持ちで、地元のA県のA大学病院に入局したとする。
しかしながら、やはりA大学の医局は大変で、医局と折り合いがつかないまま辞めてしまった。
残された選択肢は2つ。
- 出身大学であるB大学の医局に入り、引っ越す
- A県に止まり、フリーで働く
道は2つしか残されていない。
後者の道は一部地方、田舎地域では難しい。医局の力が響き渡る地方では、その地方で医局を抜ける=その地域では働き口がない、という事になりかねない。
本当に戦略的なやり方は、それを見越してC県の市中病院のプログラムに入るか、C大学病院のプログラムに入る事だ。
そうすれば仮にやめたとしても、出身地のA県か出身大学のあるB県で働く事ができるだろう。
医局を「辞めるかもしれない」可能性がある状態は、同時に「その地域で医師として働くのが困難になる」可能性がある状態でもある。
もし医局に入るのであれば、そのリスクを承知の上で入らなければならない。
自分が組織の上の人間になった時、果たして日本の医療業界は…
医局に入るメリットは「安定」と「将来ラクできる」という2つがある。
特に後者は、下っ端が増えて雑用を押し付けることができるという事がミソだ。
しかし、医局に入ることは本当に「安定」で「将来のラク」を手にする事ができるのだろうか?
僕はそうは思わない。
崩れ始めている医局の安定
まず、日本という国自体が崩れ始めている。
今後の日本は少子高齢化が進み、明るい未来が見えない。
医療費は年々増えていき税収は増え、それでいてデフレの頃から給料は変わっていない。変わらないどころか減り続けており、なんと韓国やタイ、中国に大学新卒の給料は同等かそれ以下になっているという。
日本では国民皆保険制度が採用されており、医師の給料は医療費彼捻出されている。究極的には医師の給料は税金から賄われている。
国力が衰えていって税収も減ってくると、医療費は削減され病院側は医療スタッフの給料を減らさざるを得ない。最終的に医師の給料も減らされることは間違いない。
また、今後医局に若い人材がたくさん集まる保証はどこにもない。
医師の仕事は案件ごとに市場に解放された。名前の通り民間医局という、民間で医局の役割を担うサービスまで存在する。
昔は医局が独占していた医師のバイト紹介事業も、今となっては企業が行なっている。良い意味で市場に解放された。
この世界が、再び前時代的な医局システムに戻るとは、到底思えない。
若い人材が医局に回帰する理由が一切見当たらない。
若手が増えなければ「将来のラク」は手に入らない。
結果的に、医局に力は戻らない。
力がない医局で上に立っても、何のメリットもない。
将来のメリットが無ければ、今我慢する意味は見出せないだろう。
だからこそ僕は、バイトに力を入れ経済的な合理性を高める戦略を取っている。