近年、医療を取り巻く環境は変化が激しい。
医療そのものの技術革新という意味では、遠隔医療や分子標的薬などの新薬、ロボット手術「ダヴィンチ」の登場などがある。今後はiPS細胞を利用した再生医療が展開される事が予想され、医療の技術革新は未だ止まりそうにない。
人口構造や制度の変化も大いにある。人口構造としては少子高齢化が進み、病院で医療を受ける患者のほとんどは高齢者である。それにより医療費が増加し、厚生労働省は医療費を抑えるべく様々な策をめぐらしている。
また結婚出産の年齢が増加し、不妊治療や人工授精など新しい需要に対する医療も生まれた。
需要があるところに新たなサービスが生まれ、新たなサービスが生まれるとそこに技術革新が加わり、さらなる変化を遂げる。複雑に絡み合いながら医療は日進月歩を続けている。
人材自由化の波
そんな変化が激しい医療業界で、近年日本で活発化しているのは医師人材の自由化だ。
医療ドラマ「ドクターX」では、フリーランスと呼ばれる所属組織を持たない医師が、1件いくらというフィーをもらい手術を請け負っている姿を描いている。ここで描かれているのはフリーランスの外科医と麻酔科医であるが、他の科でもフリーランス医師は存在する。
医師人材が自由化した理由は、医局の崩壊とインターネットの力だと僕は思っている。
インターネットを探せば、メディウェル、エムスリーキャリアエージェントといった大手から、40代50代60代の医師転職ドットコムや首都圏の転職に強いマイナビDOCTORなど
、様々なニーズに応えるべく医師の転職会社が複数存在している事がわかる。
そして1度広く開放された市場は、再び閉じる事はない。医師という人材は自由化され、今後もそれを維持もしくはさらに明確に自由化されていくと思われる。
諸外国では、オンライン上で医師の口コミを集めるサイトが存在しており、今後日本の医師も「食べログ」のように他者から評価され、それがインターネット上で公開さ誰でもアクセスできる時代がやってくるだろう。
二極化する医師という人材
そのため、医師という人材は今後二極化していくと予想される。
技術と知識、経験と人格が伴い人気の出る医師。彼らはどこで仕事をしても患者から信頼と人気があり、病院としても彼らを雇いたい。
その真逆に、技術があっても人格に問題があって不人気だったり、人格は良いが技術に不安があるとインターネットで口コミが蓄積して信頼を失う医師。病院としては彼らはなるべくクビにして、インターネットで新しい求人を募りたい。
このように、今後は医師も個人レベルで外から評価を受ける時代がやってくると思う。
縁あってとある医師の転職支援会社の方とお話しする機会があったので、そこで話した、こんな医師は転職できない、今後の日本の人材競争で勝ち抜いていけない、という人の種類を紹介しよう。
転職できない医師とは
転職に不利な医師のタイプは、ずばり
- コミュニケーションがとれない
- お医者様気分が抜けていない
- 医療をサービスとして考えていない
の3つ。
1、コミュニケーションがとれない
最も転職が難しいのは、とにもかくにもコミュニケーションがとれない医師だという。
特に医師同士でうわべだけのコミュニケーションがとれても、コメディカルスタッフとコミュニケーションがとれない医師は転職先を紹介できないという。
近年、医療従事者の種類も多様化してきており、各専門家がチームで治療にあたっている。
運動リハビリ専門の理学療法士はもちろん、褥瘡管理の専門の認定看護師や、口腔ケア専門の歯科衛生士などもいる。これらの職業は昔にはなかった職業で、近年生まれたものである。
こういった医師以外の専門家の力を頼る事で、効率的な治療を行う事ができる。それには治療のリーダーとなる医師と、他職種とのコミュニケーションが重要であることは言うまでもない。
そもそも、そういった職業が存在している事を認知している必要がある。さらに言えば各々の職業がどういった専門性を持っているのかを医師が知っている必要がある。
これらの前提知識がない医師は、コミュニケーションをとった所でうまく連携ができないため、治療効率は高まらない。
医療業界をとりまく人材の種類と質の変化に対応し、かつ新しい種類の人材と密にコミュニケーションをとり、治療成績を向上させられるような医師を病院側は欲しがる。
コミュニケーションがとれない医師、とは
- コミュニケーションがとれない=コミュニケーション能力が低く会話がうまくできない
だと思っている医師は多いと思う。そして自分は違うと思っている医師も多いはずだ。
しかし、コミュニケーション能力が低いという事は、決して会話する能力が低い事と同じではない。
例えば、会話をする分には問題ないが、怒りやすくよくキレていて、イライラするとコメディカルに当たり散らすような医師がいたとする。
この医師は、普段の素行からしてコメディカル側から何となく話しかけにくい医師であり、彼のコミュニケーション能力は低いと判断して良い。
つまり、医療現場におけるコミュニケーション能力というのは、他職種とのコミュニケーションが生まれやすい土台を作れる能力の事である。
コミュニケーション能力が高い医師とは、会話そのものがスムーズなのはもちろん、それだけではなく、会話が発生しやすい雰囲気を持っていて、ちょっとした相談をしやすい人柄だとコメディカル側が思える医師のことである。
それには普段から他愛のない会話をしたり、相手から展開してきた話を聞いてあげる事が重要である。
怒りやすいという性質以外にも、コメディカルの事を下に見てバカにするような態度をとる医師がいたとすれば、彼に話しかけようと思うコメディカルスタッフは自然と少なくなる。彼のコミュニケーション能力は低いと言って良い。
2、お医者様気分が抜けていない
今の中年以降の医師に多いらしい。昔の古い時代、お医者様様だった時代のことを知っている医師達なのだろう。
彼らはその優越感から抜け出す事ができず、サービスとしての医療の質を損ねてしまう。
今の高齢者達だけに関して言えば、「お医者様」という感覚を持ち合わせている層が一定で存在するので、まだ良い。
しかし将来の患者になる若年中年層では、その感覚を持ち合わせている人は少ないだろう。
彼らは時代の変化に取り残された人材であり、医師人材の市場開放により最も被害を被る層であると言えよう。
3、医療をサービスとして考えていない
昔、医療は単なる治療行為にイコールであった。
何かしらの怪我や病気になり、損なわれた健康を取り戻す行為に過ぎず、そのプロセスには重きを置かれなかった。
しかし、医療が進歩した結果、サービスにまで医療は進化した。
例えば妊婦さんで言えば
同じ分娩ならば痛くないほうが良い
そういう需要はおそらく昔から存在したはずだが、硬膜外麻酔が確立される前は無痛分娩という選択肢はなかった。
医療が進歩し、安全な硬膜外麻酔の方法が確立され、無痛分娩は今となっては当たり前の医療サービスとなっている。
無痛でなくても分娩は可能である。しかし需要がそこに存在し対応できる技術と供給があれば、そこにサービスが生まれ対価が発生する。
他にも
同じ手術ならば傷が小さいほうが良い
というニーズも存在する。
ガンを取り除くだけであれば開腹手術でできただろうが、より小さく目立たない傷の方が望ましい。
同様の理由で、治療に必ずしも必要ではないがあればサービスとしての医療が向上し、そこに確かな需要があるものというのはいくつも存在する。
治療できることは当たり前で、さらにその先のサービスとしての医療を受けては求めているのである。
医療のサービスクオリティはインターネットに情報として蓄積されていく
そしてそういった質の高いサービスを行う医療機関がどこなのか、という情報がインターネットによってフリーアクセス化しつつある。
今後そういったサービスとしての医療が求められる時代になる。そしてそれが外部から評価される。
医療を1つのサービスとして捉えられない医師は、間違いなく時代に置いていかれるだろう。
トータルサービスとしての医療を向上させる
これらの事を組み合わせると、転職に不利な人材を一言で言えば、トータルサービスとしての医療を向上させられない医師という事になる。
専門分化が激しく進んだ今、他職種とコミュニケーションがとれなければ治療の質は下がる。
お医者様気分が抜けていなければ、医療のサービスとしての質を下げてしまう。
そして医療をサービス捉えられなければ、そもそもサービスとしての質を向上させる努力ができない。
治療の質は従来、医師の経験、知識、技術などがものを言う世界であった。しかし現代は、専門分化が進み、その道の事はその道のプロに任せる事が効率的な時代になった。何でもかんでも1人でできる、レオナルドダヴィンチのような医師は現代には生まれようがないのである。
サービスの質は様々な要素が複雑に絡み合うが、結局のところアウトプットとしては「サービスの受け手の満足度」という形で出てくる。インターネットの力で医療機関のみならず医師個人レベルにまで評価が透明化され、誰でも閲覧できるようになったとすれば、これを最大化させる事が今後は重要になる。
治療、サービス、両方の質を下げ、トータルサービスとしての質を下げてしまう医師は転職業界では敬遠される。
それでも転職したい場合はどうするべきか
自分がどういった人材なのか、どういった職場なら転職できるのか。そういう疑問を持つ医師はたくさんいると思う。
自分のコミュニケーション能力に絶対の自信がある医師の方が少ないだろう。
そういう疑問に対して、最も手っ取り早く効率的に対処できるのは、やはり転職のプロに相談する事だろう。
今の時代、様々な医師転職会社が存在するが、業界の巨人として君臨するエムスリーキャリアエージェントは安定した転職紹介数を誇っている。真剣に転職を考えるならば避けては通れない会社である。
また、40代50代60代の医師転職ドットコム は特定の年齢層を得意としており、中堅〜ベテラン医師特有の転職問題に関しての諸問題に詳しいと推察される。中堅以降の医師で転職を考える場合は一度相談をしてみると良いだろう。
他にも首都圏、特に東京千葉神奈川の案件が豊富なマイナビDOCTORも無視できない。
首都圏は様々な医局があり、人も病院もかなりの数がある。ある意味日本で最も特有な医師転職事情である。もし首都圏での転職を希望している場合はとりあえず登録して、他の転職会社と比較する事をオススメしたい。
就活をしない医師にとって「自分の強み」のようなものを自己分析するのは難易度が高いし、病院という特殊な職場では環境によって求められる性質が異なる。
だからこそ自分という人材をプロに客観的に評価してもらい、適切な職場を紹介してもらう、というのは非常に有効である。
まずは自分に合う職場に転職し、そこで徐々に時代の変化を捉えつつ自分を変化させていけば、転職市場で有利な人材になる事ができるだろう。
まとめ
転職やバイト探しに不利な医師人材とは
- コミュニケーションがとれない
- お医者様気分が抜けていない
- 医療をサービスとして考えていない