医者もある程度の年数が経つと
医者なんてやってられないな
と思う事に、遭遇する。
人によっては、もう毎日思ってるよ、という人もいるかもしれない。
医者なんてやってられない、と思うタイミング
僕が体験した「医者なんてやってられない」と思ったタイミングは
- 死力を尽くして外来をやっても、遅いと言われる時
- 当直中、やっと眠れると思ってベッドインして5分で呼ばれた時
- 人が足りなくて36時間くらい働いている時
- 当直明け、やっと仕事が終わったと思って帰宅しようとしたら急変した時
- 当直明け、自宅のベッドで快眠しているも、くだらない看護師の電話で叩き起こされた時
- 気づいたらプライベートな時間を過ごさず3ヶ月経っていた時
- 患者の理不尽なクレームを受けた時
- 患者の汚物や血液に汚染された時
- 不慮の事故が発生して裁判になりかけた時
の9つ。
この9つは、記事をご覧の皆さんも1つや2つ身に覚えのある事では、無いだろうか。
1、死力を尽くして外来をやっても、遅いと言われる時
外来が混んでいると、医者なんてやってられない気持ちになる。
水も飲まず、トイレにも行かず、外来をこなしているにも関わらず、なぜか一向に外来が進まない。
死力を尽くして、1患者あたり5分でさばいているのに、患者さんの世間話に時間を取られ、結局少しずつ時間を削られていく。
最終的には、午後の最後の方の患者さんに
先生、遅いよ
と言われる瞬間、医者なんてやってられない。
2、当直中、やっと眠れると思ってベッドインして5分で呼ばれた時
外来が終わり、手術が終わり、いざ夕方からの当直。
当直は忙しいが、患者さんからすれば、容体が悪いから来ているわけで、なんとかしてあげたいという気持ちの方が強い。
17時から開始して、ノンストップで働いて9時間、現在時刻夜中の2時。
やっと眠れると思い、当直室のベッドにイン。
気絶する様に眠る。
ピリリ!ピリリ!
自分のピッチが鳴る。誰か患者が来たようだ。
時計を見る。なんと、5分しか経過していない…。
この時の絶望感は、味わった人にしかわからない。
3時間くらい経ったかなと思って、5分しか経っていないという事は、実質的に2時間55分、自分が思っているよりも朝が来るのが遅いという事で、当直医としての労働時間が長いという事に他ならない。
はあ、医者なんてやってられないな。
と思いながらも、重い扉を開けて当直室から出て、救急外来へと向かうのだが。
3、人が足りなくて36時間くらい働いている時
当直が終わり、朝帰ろうかなと思っても、帰れない日もある。
結局1〜2時間しか寝ておらず、当たり前のようにめちゃくちゃ眠い。
人が足りないからという理由で、オペ室での仕事を任される。
寝そうになる。正直、少し寝てる。
トイレに逃げ込んで、便器をまたいで座った瞬間、少し休憩できる。
そんな時、ふと思ってしまうのである。
医者なんて、やってられない。
疲労と眠気で、本気でやっていられない、もう今すぐ帰って寝たいと、思う。
4、当直明け、やっと仕事が終わったと思って帰宅しようとしたら急変した時
オペ室での仕事が終わり、夕方やっと帰ろうとした時。
こういう時に限って、急変が起こったりする。
もちろん、結局帰れない。
ここまで来ると、もう男でも泣きたくなってくる。自分の努力は、一体どこに消えていっているのか、よくわからなくなる。
書きながら昔のことを思い出してしまう。
医者なんて、やってられないな。
というか、ここまで良くやって来たな、自分は。
他のお医者さんもそうだが。
5、当直明け、自宅のベッドで快眠しているも、くだらない看護師の電話で叩き起こされた時
やっとの思いで帰宅。
1日ぶりの自分のベッド、1日ぶりの睡眠。
一周回って、枕と布団が「愛おしい」存在に見えて来る。
やっとぐっすり寝ているのに、電話が鳴る時がある。
自分の患者の事を、見てくれている看護師さんからの電話だ、仕方がない。
しかしたまに、本当にどうでもいい事を確認するような、くだらない電話で起こされる事がある。
こういう時、正直こういう看護師にはかなりの怒りを覚えるが、看護師側からすれば「そういうルール」になっているわけであって、致し方ない。
攻撃する気もなれず、頭に思い浮かぶのは「やってられない」という文字だ。
6、気づいたらプライベートな時間を過ごさず1ヶ月経っていた時
医者をやってられない、と思うのは、プライベートがごっそり削られている時に気づいた時だ。
特に、プライベートが一切無く月が変わっていると、悲しい気持ちになる。
仕事が好きなら良いが、好きじゃないのに、仕事にこれだけ時間を取られているのか、と思うと、辛い。
7、患者の理不尽なクレームを受けた時
多くの患者さんは自分の努力をねぎらってくれ、感謝してくれる。
しかしながら、そうではない患者さんもたまにいる。
明らかに理不尽なクレームを言う患者さんもいる。
そういう患者さんに、ひたすら理不尽な事を言われ、罵倒されながら、謝罪していると、なんだか不思議な気持ちになる。
怒りとか、悲しみではない。
はあ、やってられないな、医者なんていう職業は。
そういう気持ちになる。
8、患者の汚物や血液に汚染された時
当然ながら、患者さんの汚物や血液などが、自分の体にかかる事がある。
それは仕事上仕方ない。
しかしながら、その仕方なさゆえ、誰が悪いわけでも無いがゆえに、やるせない気持ちになるのだ。
自分の健康のためにも、医者という職業を長く続けるのは、良く無いのではないだろうか。
給料が2倍になっても、健康には変えられない。
そういうリスクを負っているという意味では、とてもやってられない職業である。
9、不慮の事故が発生して裁判になりかけた時
僕は幸いにして経験が無いが、隣の机の先生や、仲の良い先生が裁判になりかけて、青い顔をしている姿を見た事がある。
医者をやっていればわかるが、不良の事故は100%予防できない。
長く医者をやっていれば、不慮の事故に巻き込まれる事だって、当然あっておかしくはない。
そんな時、誰も悪く無いにも関わらず、患者さんは被害を被る。
やるせない怒りがそこにはあって、その怒りを理不尽に医者にぶつけてくる事は、結構ある。
実際に裁判にまで至る事だって、あるだろう。
医者は、人の人生に大きく影響を与える仕事をしている。
何かがあった時、その責任は重大だ。仮に過失がなくても、結果として患者さんは永続的に健康や機能を損ねる事がある。
こういう事に頭を悩ませている、先輩のお医者さん達を見て来て強く思う。
医者は長く続けるもんじゃ無い。
少なくとも、第一線で活躍し続ける様な事は、しない方が良い。
医者は20年も30年も、やっていられない職業だ。
実際、医者なんてやってられない
これ以外にも、医者なんてやっていられないと思うタイミングなんて、腐る程ある。
実際に、やってられない仕事なのである。
やればわかる。
もう見栄とか、カッコ良い医者でありたいとか、外部からの自分に対する評価なんて、どうでもいい。
全てを投げ捨てて、逃げ出したいと思ってしまうくらいの、仕事内容ではある。
僕はもう、既にほとんど医者をリタイアした。
週2日くらい、軽く働いているだけだ。
その辺の事については、僕がバイトを頑張る理由に詳しい。興味のある人はご覧いただければ幸いだ。
あとは子供と公園で遊んだり、両親含め家族と料理を作って食べたり、車で国内旅行に出かけたりしている。
家族と過ごす時間というのは、良い。
このために生きているのだと、実感できる。
もちろん、活動は家族でけではない。
1人で温泉に泊まって、本をひたすら読みふける事もある。
平日だと人がいないので、結構集中できる。
はっきり言って最高だ。
そんなに派手な生活をしなければ、生きていけるくらいのお金はある。
全然、元の状態に戻りたいとは思えない。
今もなお、日本の病院を支えるべく日々尽力しているお医者さんには、頭が上がらない。
しかしながら、僕にはもう、医者という仕事は、とてもじゃないがやってられない。
やってられないのだ。