医局という組織は、なかなかにメンドくさい。
入ってみないとわからないが、とにかく自由がきかない。
やれと言われた仕事は嫌でもやらなければならないし、行けと言われた病院には嫌でも行かなければならない。
最近の若い医者が
可能ならば医局に入りたくない
と酒を飲みながらこぼしてしまうのも、良く分かる。
しかし「今後医局の力が戻るか」と巷でささやかれているように、医局という組織が今後どういう動きになるのか、周りの医師達はなんだかんだで目が離せない様子だ。
可能ならば入りたくない医局、その魅力の無さとその理由
医局に入りたくない、という思いはきっと誰にでもあるだろう。
望んで入りたいと言っている人の方がマイノリティだ。これはまず間違い無い。
それくらい、医局という組織は入ると損をする、魅力の無い組織だという事になる。
なぜ医局は魅力がないのだろうか?
それは医局の上層部が、若者をこき使って旨い汁を吸っているからである。
若者の努力や労働によって生み出される価値を搾取して、上層部が吸い上げる。吸い上げられた若い医局員の労働力は、権力、財力という形に変えて医局の力となる。
こうして医局は成り立ってきた。
そして今の医局の上層部にいる人達も、若い頃は搾取される側だった。
医局で上に行けば旨い汁が吸える!
そう思って努力してきたのだ。
医局という組織が常に若者にとって魅力の無い組織である事は、医局の構造上の問題だ。
そういう構造だからこそ医局は力を持ち、力を持つから「ただの仲良しクラブ」では終わらず、ただの仲良しクラブで終わらないからこそ価値を発揮している。
若者に
可能ならば入りたく無い!
と思われてしまう医局は、そういう構造でないと医局としての存在意義が保てなかった。
僕はそう思っている。
「医局に入らない」選択のデメリット
さて、医局に入らないという選択をするにあたって、そのメリットとデメリットは何だろう。
まずメリットは明確である。
上記のような搾取構造から脱出できる。
つまりもっと良い労働条件で、高い給料をもらう事ができる勤務形態を若い医師が手に入れる事ができる。
医局に入らない選択において、唯一にして絶対のメリットだと言えよう。
では一方、医局に入らないという選択におけるデメリットは何だろうか。
つまり、医局に入る事のメリットを享受できない事が、医局に入らないという選択のデメリットなのだが、僕が思うにそれは
- 多様な医師に教育してもらうチャンスを失ってしまう
- 医局の支配地域での仕事がしにくい
- 大きめの病院(多くは医局の関連病院)で働けない
の3つ。
1、多様な医師に教育してもらうチャンスを失ってしまう
まず医局に入るメリットの1つである、医師としての経験に厚みが増し、様々な医師に指導をしてもらえるという教育環境。これを味わう事ができないのは医局に入らない選択肢の大きなデメリットだ。
医師という仕事はなんだかんだで経験が物を言う世界。やはり先輩達は医師として優れていて、中々追いつくのは難しい。
教科書には載っていない知識、テクニック、経験、症例、あらゆる事を教えてくれる。
そんな諸先輩方がたくさんいる医局で教育を受ける事は、医師として成長する上で非常に重要。植物の成長における「肥沃な土」みたいな存在だ。
そんな「肥沃な土」を提供してくれる医局に属さないのは、1つのデメリットを被る事になろう。
2、医局の支配地域での仕事がしにくい
特に地方での話。
少数の医局が医療を牛耳っている地方では、どんな形であれその地域で医療をする、医者として働くにあたって医局の影響を受ける。
医局に属していない場合、その影響で少し仕事がしにくくなる事がある。
例えば
- 紹介状を書きたいが、紹介先が限られる
- 特殊な検査の依頼を大学にしたいが、少し気が重い
など。
どれも乗り越えようと思えば乗り越えられる事ではあるので、実務に支障が出るレベルでは無いかもしれない。
しかしながら、気持ち的に少し仕事をやりにくいと感じるだろう。
3、大きめの病院(多くは医局の関連病院)で働けない
基幹病院となるような大きな医療施設は、大抵どこかの医局の関連病院である。
そうなると、そういった大きな医療施設で医師として働くには、かなりの確率で医局に属している必要がある。
仮に初期研修上がりで病院に就職したとしても、医局から圧力を受ける。そうして結局医局に入ってしまった医師を何人も知っている。
医局に入りたくなければ、大きめの基幹病院で働く事は諦めなければならない。
しかし東京などの大都会では、独立して力を持っている基幹病院もいくつか存在する。
そういう病院ならばこの問題は解決するが、大都会以外での多くの地方ではそれは難しい。
近年の若者の仕事に対する感覚と、医局という組織との溝
近年、仕事に対する考え方が変わってきているように感じる。
昔の人の感覚としては
仕事では我慢が大事であり、給料はその忍耐に対する対価である
という感覚だと思う。
しかしながら、最近は
仕事では本人が楽しめる事が大事であり、給料は社会に与えた価値に対する対価である
という感覚が一般的になってきているように感じる。
つまりとにかく我慢すれば良い、忍耐すればそれが良い、という時代は終わりつつあるという事だ。
それを証拠に、Youtuberという「視聴率を取れそうな動画を自前で作る職業」が人気だ。去年の小学生のなりたい職業ランキング1位だったという。
こうした時代に、流石に昔ながらの感覚を持つ人を募集しようとしても、なかなかうまくいかないだろう。
医局という組織は、時代の波に合わせて形を変えない限り、頭の固い老人が作る古い組織として君臨し続け、次第に沈没していくようにも思える。
医局に入らずに医師として生きていくために
医局に属さず、自分の力で仕事を見つけ、修行し、知識と経験を蓄える道に歩む場合、おそらく一番ネックになるのが「仕事を見つける」という手順だろう。
ここだけは努力でどうにもならない場合がある。
そのためもし「医局に入らない」という選択をするのであれば、自分でバイト先を探したり、自分で勤務先を探す必要があろう。