医師として働いていると、嬉しい事や達成感もある一方、嫌な思いや大変な思いをする事がある。個人的な印象としては、むしろ後者の方が比率としては多い。
その度に心から思う。
医師という職業は、大変だな…
医師という仕事をフルタイムでやり続けるには、精神面、体力面、技術、知識、あらゆる物を兼ね備えたスーパーマンのような人じゃないと難しいのではないだろうか。
しかし皆がみんなそうではない。
そんな医師という過酷な仕事を続ける医師の中には、精神的にやられてしまい、皮肉にも自らの命を危険にさらしてしまう先生さえいる。
医師のうつ病発症率はどれくらい?
JAMAに掲載された論文では、研修医の28.8%がうつや抑うつ症状を来しているという(Mata DA,et al.Prevalence of Depression and Depressive Symptoms Among Resident Physicians: A Systematic Review and Meta-analysis.JAMA.2015;314(22):2373-83.[PMID:26647259])。
他にも筑波大の前野哲博教授ら、岐阜大の井奈波良一教授らなど、様々な報告がある。そしてうつ症状、抑うつ状態を呈している医師の割合は、総じて20%代である事が多い。
以上から、医師の20〜30%はうつ、抑うつ症状が出ていると考えられる。
医師のうつ病、鬱っぽい気分の多様な原因
では、医師のうつ病や鬱っぽい気分の原因は何だろうか。
個人的には以下の6項目が上げられる。
- 医師としての仕事がつまらない
- 病院という職場が無理
- 単純に労働負荷が高過ぎる
- 責任の重さに押しつぶされそう
- 緊急の呼び出しなどイレギュラーな仕事がつらい
- 人間関係がうまくいかない
1、医師としての仕事がつまらない
近年はエビデンスに基づいたガイドラインが大量に作られる傾向にあり、治療のノーマライゼーションという観点からは患者に利益があり非常に良い事だと思う。と同時に、医師が行う仕事を単調化させている。
この単調化が、近年の医師の仕事を「つまらない」物に変えているという感覚は、少なくとも僕や僕の周りの医師達が感じている。
また患者数が増え、時間的にかなりシビアなスケジュールで業務をこなさなければならない。外来、手術、回診、処置などを短時間で行わなければならず、余裕が無い。
時間的な余裕が無い事も、医者の仕事をつまらなくさせている。
この辺りの話については、思った以上に医者という仕事がつまらない件についてに詳しい。
2、病院という職場が無理
僕の友人には、病院という職場が無理だという人がいた。老人ばかりの職場で老人ばかりを相手にして仕事をしたくないという事らしい。
確かに、どこを見渡しても老人しかいない病院でこれから先何十年も働くと思うと、気分が塞ぐのは理解できる。
結果的に彼女は小児科に転化し、非常勤で産業医としても働いている。確かに小児科なら相手は未来ある子供だし、会社で働く産業医なら老人だらけという事は無い。
3、単純に労働負荷が高過ぎる
おそらくほとんどの医師はこれが原因でうつ病になってしまうのではないか。
医師の労働負荷の高さは、労働そのものが過酷であるのもそうだが、どちらかというと労働時間がやたらと長い事にあると思う。
そもそもどこからどこが労働なのか、曖昧な部分がある。
当直という業務を15時間労働と捉えるのかどうか。緊急の呼び出し当番で自宅待機している時間はどうするかなど、判断が難しい。
こういった曖昧な労働が増えると、労働としては捉えられないかもしれないけど何となく働いている気がして、疲弊する。
この辺りの労働基準が明確化され、法律で医師の労働時間が整備されるようになれば良いのだが…。
4、責任の重さに押しつぶされそう
医師として働いているとヒシヒシと感じる。
多くの場合、一生懸命治療をしてダメだった場合、家族は理解してくれる。しかしながら患者がものすごく若かったり、あまりにも元気な状態から急に状態が悪くなったりすると、家族側からも受け入れる事ができず、医師側に落ち度があったのではないかという言葉を遠回しに言われたりする。
この時、その責任の重さに逃げ出したくなる時は、正直ある。
命を背負っているという責任、重さ。これが医師にとって大きな負担である事は間違いない。
5、緊急の呼び出しなどイレギュラーな仕事がつらい
医師以外の仕事でもいくつかあると思うが、イレギュラーに仕事が舞い込むのは中々のストレスだ。
医師の場合、緊急で呼び出しがあった場合は大抵緊急事態、患者の容態が悪い確率が高いので、さらにストレスである。
6、人間関係がうまくいかない
医師が集まると、人間関係で問題が必ず出てくる。
医師という人種がそうさせているのか、医局という組織がそうさせているのか何なのかわからない。でも一定の確率で人間関係諸問題に巻き込まれる。
こういった医療とは本質的に無関係な事でストレスを感じるのは非常にばかばかしいが、場合によっては深刻なケースもある。
医師のうつ病、鬱っぽい気分を解決する方法
僕個人としては、医師がうつ病や抑うつ気分になったからといって、すぐ転職で解決しようとするのはいかがかと思う。
なぜならば、根本的な解決になっていない場合、転職してもまたすぐうつ病になってしまう可能性があるから。
例えば上記の理由のうち
- 医師としての仕事がつまらない
- 病院という職場が無理
という理由で抑うつ気分になっていたとして、別の病院に転職しても、それは根本的な解決にはなっていない。
もはや病院で医師として働く事が嫌になっているのであって、例えば産業医として病院以外の場所で働くか、医師以外の職業に就くしか解決方法は無い。
詳しくは医師が医師以外の職業、他業種に転職するには?へ。
転職は医師のうつ病、鬱っぽい気分を解決する可能性のある1つの手段に過ぎない
逆に、他の4つの理由である
- 単純に労働負荷が高過ぎる
- 責任の重さに押しつぶされそう
- 緊急の呼び出しなどイレギュラーな仕事がつらい
- 人間関係がうまくいかない
が原因の場合、これらは転職活動によって改善できる可能性がある。
労働時間が長いのがつらいのであれば、非常勤で週3だけ働いたりして労働量を調節すれば良い。常勤で働きたいのであれば、当直が無いもしくは少ないところで働けば良い。
責任から逃れたいのであれば、あまり責任の無い仕事内容に変えれば良い。
緊急の呼び出しがつらければ、そういう仕事が無い病院で働くか、フリーでバイトだけしていれば良い。
人間関係がうまくいかないならば、別の病院に転職してしまえば済む。
このように、医師にとって転職というのは確かに抑うつの原因となっている物を取り除く1つの手段ではある。
どんな転職サイト、転職会社を使うべきかは【タイプ別】医師の転職サイトの選び方を現役医師が解説を参照して欲しい。
しかし盲目的に「転職すれば解決するだろう」と思ってしただけでは、解決しないケースも上記のように存在する。
自分にとって病院に対する不満、抑うつ気分の原因は何なのか、それを洗い出す必要がある。
洗い出す方法については医師の転職、具体的な手順があるので、参考にどうぞ。