医師の給料を決めているパラメータは、複数ある。
具体的には
- 勤務地
- 当直回数
- 当直内容
- 時間外勤務
など。
当直回数は、主に若い医師に多い。当直内容は循環器内科や脳神経外科など、特定の専門科に重い負担がかかっている。
つまり上記の複数あるパラメータを決めているのは、ある意味以下の3つである。
- 勤務地
- 年齢
- 専門科
さてこんな医師の給料であるが、ざっくりと平均すると約1200万くらいだと言われている。つまり月収100万円という事になる。
この勤務医の給料、月給100万という数字は妥当なのだろうか。
常勤医とバイト医の給料差
常勤医とバイト医の給料さについて比較してみよう。
常勤医が仮に週5日の日中勤務、および週1回の当直勤務を行なっていたとする。そうすると月の勤務時間は日中勤務20日と、当直4回という事になる。
これを医師のアルバイトの相場と比較する。医師のアルバイト勤務はその専門性、難易度、場所、勤務時間などによって異なる。ここでは低く見積もって、日中勤務が1日7万円、当直業務が1回10万円
であるとする。
そうすると、上記の常勤勤務医の月給(アルバイト修正後)は
1日7万円、20日=140万円
1回10万円、4回=40万円合計180万円
となる。100万円よりも80万円多い。+80%である。
少しこの値段設定が高いとして、日中勤務が1日5万円、当直業務が1日5万円であるとするならば
1回5万円、4回=20万円合計120万円
となる。それでも+20%である。
いずれの場合も、経済的な効率は常勤よりもバイトの方が良い。
常勤医は過剰なリスクプレミアムを支払っている
しかし、常勤とバイトで異なる点がある。それは、バイトは仕事が不安定であるという事。つまり仕事を失うリスクがあるという事。
このリスクプレミアムとして、バイト医には数十パーセントの給料がバイトに上乗せされていると考えるのが妥当だろう。
もし失業するリスクが同じなのであれば、みんな経済的合理性の高い方(バイト医)を選ぶはずだが、実際はそうなっていない。それはつまり、リスクを認識し多少の経済合理性を犠牲にしている事に他ならない。
少なくとも、多くの医師にとって「バイトだけでやっていくのは常勤と比べてリスキー」と思っている事がわかる。
ここで1つ疑問が出てくる。
このリスクに対する数十パーセントのプレミアムは、果たして妥当な額なのだろうか?
つまり、常勤とバイトのリスクはこの金額に見合うほどの差が本当にあるのだろうか?
期待値が1以上になる勝負を選ぶ
このページを見ている人であれば、期待値という概念はご存知だと思う。
知らない人のために言っておくと、期待値とは確率と利益の積である。とある現象が起こる確率と、それが起こった際に得られる利益のことを言う。
勝負事では、常に期待値が1以上になれば回数を重ねる毎に自分はどんどん必ず得をするようになる。これは数学的には当たり前の確率論で、今更何を言っているんだと思う人もいるだろう。
しかし、思いの外この計算を間違えている人が、医師の中でも多い印象がある。
例えば先ほどの給料差、+20%と+80%の給料差があったが、平均して+50%だったとする。
そうした時に、リスクに対するプレミアムは+50%(1.5倍)だが、果たして期待値はどうだろうか。つまり、常勤に比べてバイト医師は1.5倍も失業しやすいのだろうか?
僕はそうは思わない。
バイト医師と常勤医師の失業リスクは、さほど変わらないというのが僕の考えだ。つまり、確率に対して常勤医は多すぎるプレミアムをバイト医師に払っていることになる。
常勤医vsバイト医、失業リスクの差
まずバイト医師は1つの病院に勤務していない。複数の病院を掛け持ちしており、多くは週1回だとして5箇所程度の勤務先があるだろう。
普通に考えて、勤務先が1つの医師よりも5つの医師の方が失業リスクは少ない。
また、仮に医師という職業が今の歯科医師のように窮するとすれば、それは
- 高度な高齢化
- 医学部定員増による医師免許保持者の増加
- 日本という国の衰え
- それに伴う政策変更
など、国全体を巻き込むようなマクロな要素による影響が大きい。つまり倒れる時は常勤もバイトも共倒れ、というのが僕の予想だ。
以上を踏まえると、とてもバイト医に1.5倍のリスクプレミアムが乗る理由が見当たらない。常勤医が支払っている多すぎるリスクプレミアムは、バイト医にとって美味しい蜜になっている。
自分で仕事を探す事に抵抗がある医師と、無い医師
それでも
フリーの医師って自分でバイトを探すんだよね、それは怖いな
なんて言う常勤医は多い。何人に話して見ても、ほとんどはこういう反応を見せる。
しかし、今の若手は違う。
インターネット経由での求人に抵抗がない若年層
今の若手医師たちは、学生時代にアルバイトを探す際インターネット上の膨大な情報の中から
- 求人を探し
- 応募し面接をし
- 無事通って働く
というプロセスを経験している。
結果的にインターネットで求人を見つけ、自分で応募するという行為に抵抗が少ない。
一方、インターネットが無い時代の人はインターネットで情報を集めて自分で応募する、という行為をやった事がない。
今の時代は様々な転職サービスが存在しており、多くはインターネットで数分で申し込みができる手軽なものだ。
求人を検索するところまでは誰でも簡単にできてしまう時代になった。
それくらい転職およびバイト紹介業界のサービスは向上している。
しかし、実際に応募し面接して、という手順をふむとなると面食らって動けない医師も多いだろう。
また上級医クラスの多くは家庭があり、無い人も離婚していて養育費を支払っているなど、何かしらの理由で経済的な負担を強いられている場合がほとんどである。
結果的に、上級医クラスは年齢も相まってなかなか踏み出す事ができない人が多い。
それに比べて多くの若手医師は身軽であり、チャレンジを邪魔する経済的な理由はあまりない。
つまり、インターネット上の求人応募に溶け込む事ができる医師の多くは心理的にも経済的にも若手医師である。彼らは医師バイトドットコムなどで自らバイトを探し行い、若手でありながら「バイト医の美味しい蜜」にありつけている。
そして彼らが得をする分、相対的に損をしているのは真面目に働く常勤の上級医達である。
今後の流れ
おそらく今後、若手医師がインターネット経由で仕事を奪っていくだろう。
そしてそのうちに日本の人口が減り、患者が減っていく。相対的に医師が余りだすだろう。そしてその頃には、バイト医も常勤医もともに痛み分けとなるだろう。
そうなる前にバイトをして稼いでおく必要がある。真面目にコツコツ常勤医なんて、バカバカしくてとてもやっていられない。